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高松高等裁判所 昭和39年(ネ)130号 判決 1965年7月30日

控訴人

石川健次

代理人

津島宗康

被控訴人

森川善正

外一名

代理人

篠原進

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の予備的請求を棄却する。

当審の訴訟費用は控訴人の負担とする。

事   実<省略>

理由

本訴は、抵当権設定請求権保全の仮登記に基づく、本登記請求であるところ、成立に争いのない甲第八号証の一、二、三(いずれも登記簿謄本)の記載によると、別紙目録(一)記載の田三筆(被控訴人両名の共有)について、松山地方法務局伊予三島出張所昭和三六年四月一二日受付を以て、訴外早川敏孝のため、抵当権設定請求権保全の仮登記(以下本件仮登記という)がなされていること、ところがその登記簿上の記載は別紙目録(二)記載のとおりであつて、登記原因と、仮登記権利者が記載されているのみであり被担保債権額が記載されていないこと明白である。(本件仮登記は成立に争いのない甲第八号証の一、二、三同第九号証の一、二の各記載を総合すると松山地方裁判所西条支部の昭和三六年四月一〇日附仮登記仮処分命令に基づく申請によりなされたものであるが、右命令は、登記の目的として、単に、抵当権設定請求権保全の仮登記と記載するのみで被担保債権額、弁済期、利息、損害金の記載を欠いていたため、登記簿にも、右債権額等の記載がなされなかつたこと、右裁判所はその後昭和三六年五月一七日右仮登記仮処分命令につき登記の目的を、「債権額金百万円也、弁済期昭和三七年二月二五日、利息日歩金一〇銭、損害金日歩金二〇銭の抵当権設定請求権保全の仮登記)と更正する旨の更正決定をしたがこの決定に基づく仮登記の更正登記は、未だなされていないこと、並びに、前記田三筆について、本件仮登記以後に他の債権者より仮差押および強制競売申立の各登記がなされていることが認められる)

そこで本件仮登記の効力について考察するに、登記は、いうまでもなく不動産登記法の定めるところに従つてなされるべきものであるところ、同法第一一七条による抵当権設定の登記を申請する場合には、申請書に債権額を記載することを要する旨定められており、これは当該抵当不動産の負担の程度を第三者に公示するために要求されているのであつて、抵当権設定登記において、被担保債権額は抵当権の権利関係を公示するために必要欠くべからざる記載事項であるといわなければならない。従つて抵当権設定登記にして債権額の記載を全く欠くものは、未だ抵当権の権利関係を公示しているものとはいえず、抵当権の登記としての効力を持ち得ないものである。このことは、抵当権設定の本登記のみならず抵当権設定請求権保全の仮登記についても同様に言い得ることであつて、前記のように債権額の記載を欠く本件仮登記は、仮登記としての効力を有しないものと断ぜざるを得ない。(その仮登記が仮処分命令に基づくものであつても同様である)

控訴人は本件のような仮登記でも第三者に対し、将来抵当権設定の本登記が行われることを予告するに十分であり、無効ということはできないと主張するけれどもも、右所論は前記説示に照らし採用できない。なお本件仮登記の仮処分命令につき更正決定がなされていること前記のとおりであるところ、仮りに右更正決定に基づき、本件仮登記の更正登記が許されるとしても、未だ右更正登記を経ていない以上、前叙判断を動かすことはできない。

そうすると控訴人の本訴請求は(予備的請求を含む)いずれも無効の仮登記に基づき、抵当権設定の本登記手続を請求するものとして、他の争点についての判断をするまでもなく失当として排斥を免れない。

従つて控訴人の請求を棄却した原判決は結局相当であるから民事訴訟法第三八四条第二項に従い、本件控訴を棄却し、また当審においてした控訴人の予備的請求も理由がないので右請求を棄却することとして当審における訴訟費用の負担については同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。(浮田茂男 水上東作 山本茂)

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